迷子

1998年6月、「友達グループ」という呼び名で、
認知症(原文では「痴呆症」)の女性四人による会が発足した。
(中略)
会が始まって数ヵ月後、私はヘレン(仮名)の家に行った。
夫は仕事に出ていて、ヘレンはひとりきりだった。

彼女は、
自分の家の中でさえよく迷子になるのよ、
と言った。

道がわからなくなるというよりも、
自分自身がわからなくなってしまうのだと言う。

自分のまわりがすべて家の中であることもわかり、
下を向けば自分の体が見えるが、
どうしたわけか頭の中では、
自分がこの空間に存在しているという感覚がないのだという。

彼女によれば、
ひとりでいるとよけいに悪くなるが、
夫やケアワーカーや友達が一緒にいて
彼女にかかわってくれれば、
迷子になっている場所から
なんとか戻って来られるのだと言う。

おそらく彼らは、
ヘレンのための鏡のような役割を果たしていて、
彼女の存在を映し出し、
彼女が彼女であることを再確認することができるように
しているのではないだろうか。

引用:クリスティーン・ブライデン著
馬籠久美子・桧垣陽子訳
『私は私になっていく』クリエイツかもがわ
p.50〜p.52、2004

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