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介護体験談

呆け老人をかかえる家族の会 千葉県支部
千葉県の通信(2003年11月25日 280号)より

母との“距離”が特効薬

千葉県 T.I

母を一人で散歩に

母との同居が始まったのは平成8年3月、母81歳の時でした。

当時はまだ足も丈夫で、長い道のりも杖があれば歩ける状態でした。散歩に出る母の後ろを見え隠れしながら私もついて行ってましたが、ある日突然ひらめいて、母を一人で散歩に出すことにしました。“石井家のおばあさん”をなるべく多くの人に知って欲しいと思ったのです。もちろん服や杖、手提げなどあちこちに住所氏名を書いて・・・。

案の定、母は帰る所がわからず、エレベーターも使えなくていろいろな人が母を送ってくださいました。ずるい考えかもしれませんが、誰かの目に触れてもらえるにはとてもよかったと思います。

やり場のない気持ちに母と喧嘩

私は仕事を持っていて60歳までは勤めていたいと思っていたのですが、母の介護と知的障害のある息子の世話を考えると、仕事を辞めざるを得ませんでした。やり場のない気持ちをよく母にぶつけてはケンカになり、そんな時決まって母は、「世話になったから私はもう帰る」でした。もの忘れはあっても口は達者な母でしたから、私はずいぶんきついことを言いました。

母の足の衰えに負担が急増

今は施設にお世話になっていますが、在宅のころは一週間のすべてをデイサービスとデイケアにあて、そのうちの5日間は自己送迎、月7日(よほどのことがない限り)のショートステイというスケジュールでした。元気な頃は、田んぼに畑にと勤しんでいた母でしたが足の衰えはとても早く、家の中でも支えなしでは歩けなくなり、介護者の負担はだんだんに増えました。

私の家は9階でひとつ階段を登らなくてはエレベーターに乗れません。バリアフリーなどとは程遠く段差のオンパレード。来る日も来る日も車椅子を持ち上げ母の手を繋いで施設通い、介護って忍耐ですよネ。

介護の限界に入所を決意

昨年5月、母の具合が悪いと施設から電話があり、病院へ直行となりました。結果胆石であることが判明し、そのまま入院。約一ヶ月後、退院許可が出たころには支えがあっても歩くことはできなくなってしまいました。

この頃、我が家は病人ばかりで私の介護の限界を感じ、施設入所を選択しました。在宅介護に優るものはないとつねづね考えておりましたがそれは住居、環境、家族問題、その他の諸条件があって実現できるものと思います。母の入所によって介護者の気持ちがこんなに楽なのかと思いました。デイケアにデイサービスと休みなくただガムシャラに突っ走っていたのは、私自身に悔いを残したくない、やるだけのことはやろう、それだけのことだったと気がつきました。距離を置くってすごいことだと、しみじみ感じています。

自分の変化に驚く

最近の母は入所生活にも慣れて、友人から頂いた人形を友に暮らしています。私が訪ねるたびに、母は顔中笑顔だらけにして、「まあ、嬉しい!!久しぶりやな」「このごろおばあちゃんに(自分の母)に会わんけどどうしとってや?」「お父ちゃん元気か?」私は心の中で「昨日も会ったじゃない」と思いながらも自分の変化に驚いています。

「おばあちゃんもお父さんも遠くて、会わないけど元気みたいよ」と在宅のころはたったこれだけの言葉が出なくて、「お母さんが89歳なのに今ごろおばあちゃんが生きていたら化け物でしょう!」なんてきつい言葉ばかりでした。母の一語一語が聞き流せなくて、ここで母の言葉を飲み込んだら何か負けそうな気がして、自己嫌悪におちいる毎日でした。解ってもらえないもどかしさをぶつけていたのかもしれません。

どんな言葉も聞き流せる“今”

今は母との“距離”が特効薬になって私も心安らかな日々です。母は最近箸の使い方が下手になりました。毎日とはいかないけれどなるべくなら昼に訪れて食事介助を、と思うこのごろです。母のどんな言葉も聞き流せて仏の顔で接することが出来る“今”を本当にありがたいと思っています。

年が明ければ母はすぐに90歳。ここまでくれば「いっそ100まで生きれば?お母さん」。距離を置いた介護はもう少し続きそうです。

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